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東京高等裁判所 昭和60年(ネ)3256号 判決

控訴人

三田康史

右訴訟代理人弁護士

松本義信

被控訴人

石川三雄

主文

原判決を取り消す。

本件を横浜地方裁判所に差し戻す。

事実

一  控訴代理人は、「原判決を取り消す。原判決添付別紙物件目録記載の不動産に関する横浜地方裁判所昭和五八年(ケ)第一〇一四号競売事件において、控訴人が金一六四万六五一六円の配当金の交付請求権を有することを確認する。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

被控訴人主張の請求原因事実は原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

二  被控訴人は、適式の呼出を受けながら、原審及び当審における口頭弁論期日に出頭せず、答弁書その他の準備書面も提出しない。

理由

一当裁判所は、控訴人の本訴の請求原因事実(原判決一枚目六行目から同二枚目裏九行目まで)に鑑みて、その訴えの利益を肯定すべきものと判断するが、その理由は以下に述べるとおりである。

債権者が債務者又は第三者からその所有不動産について抵当権の設定を受けながら仮登記を経由したにすぎないときは、抵当権の対抗力に欠けるが、後に仮登記に基づいて本登記を経由すれば、仮登記の順位により抵当権を第三者に対抗しうるに至ることはいうまでもない。

ところで、執行手続において売却がされると、抵当権は民事執行法五九条一項により消滅すべき運命にあり、買受人の代金納付後は同法八二条一項によりその仮登記も抹消されるに至り、仮登記に基づく本登記をする機会が失われるから、仮登記抵当権者の配当金を受ける権利が保全されないこととなるおそれがある。そこで、同法九一条一項五号、九二条一項は、このような不都合を避けるため、仮登記抵当権者の債権については、その仮登記に基づいて本登記を経由したとすれば第三者に対抗しうべき抵当権者の順位及び内容に従つて売却代金を供託すべきものとし、後日その仮登記の本登記をするに必要な条件を具備するに至つたときに、供託された配当金を仮登記権利者に交付すべき旨を定めたものと解される。

しかしながら、仮登記抵当権者が既にして仮登記が抹消されていることを自ら主張する以上、仮登記に基づく本登記手続を求めることはできないから、配当金の交付を受けるためには、登記義務者に対して直接配当金の交付(ないしは受領)請求権を有することの確認判決を得べき道を開くことを要し、かつ、それを以て足りると解するのが相当である。

ところで、確認訴訟の訴えの利益は、当該事件の被告に対する関係において原告の法律上の地位の不安定が存在し、確認判決によりその不安状態が除去されうる場合に限つて認められるのであり、当事者間に争いのない権利関係の確認を求める訴えは、右の観点から訴えの利益を否定されるのが通常であるが、本件における控訴人のような仮登記抵当権者が配当金の交付を受けるためには、前述したところから明らかな如く、配当金の交付(受領)請求権の確認を訴訟によつて求める必要性があることを否定することはできず、かつ、その法律上の地位の不安状態除去のためには右訴訟が最も直接的であつて、このことは相手方が右請求権を争うか否かにかかわらないというべきである。そうすると、被控訴人の本訴における態度のいかんにかかわらず、控訴人の本訴は確認の利益があるといわなければならない。

二よつて、本件訴えを訴えの利益を欠き不適法なものとして却下した原判決は失当であるから、これを取り消し、民訴法三八八条により本件を横浜地方裁判所に差し戻すこととして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官高野耕一 裁判官根本 眞 裁判官成田喜達)

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